向上りとる的に

日常のなんとなくを少なくする ちょっとした向上心

書評 ”未来は決まっており、自分の意志は存在しない“

 

f:id:koujoulittle:20210918143929p:plain

 

未来は決まっており、自分の意志は存在しない 心理学決定論

著者 妹尾武治 

 

著者はベクションに関する研究を行っている。心理学博士。

ベクションとは、自分は静止しているにもかかわらず、視覚情報によって移動しているような感覚が引き起こされる現象のこと。

自由意志論は特に新しい考え方というわけではない。歴史的にも様々な哲学者や物理学者が考えてきた。しかしこのようなストレートなタイトルにひかれ読んでみた。

 

このタイトルような言葉は、なまけ気味な私のような人間とって厄介な考え方である。自由意志はなく未来も決まっているのだから、この本を読むことも予め決まっていて、結果が分かっているんだからと無気力を増長させていく。しかし運命は決定しているといえども、頑張って運命そのものを楽しめばいいじゃないか、なるようになるさ的な前向きな諦念を感じさせる考え方でもある。

著者は決定論を前提とした生き方に関しては、明瞭に結論めいたことは書いていない。むしろそのことよりも、「この世は全て事前に確定しており、自分の意志は幻影だ」という考えを量子物理学、仏教の唯識論、ベルクソン哲学など、さまざまな領域を横断して、論理的に仮説を形成していく。この本を読んでいくと、あながちとんでもない仮説でもないなと納得させられてしまう。

むしろこの本は、知的探求を楽しむという観点からいえば、かなり充実している。

一つのテーマに関して、学問的領域はもとより、小説、漫画、絵画、映画など様々な表現ジャンルを引用している。著者の知的好奇心、アンテナの広さには舌をまく。

 

先日のブログにも書いたが、一つのテーマから様々な学問ジャンル、表現ジャンルへのアンテナが広がる。テーマから読む本や視聴するものを決めていくのも、良い方法だなとの思いを強めた。新書はテーマがはっきりしていてボリュームもお手頃なので、アンテナを広げる読書としては最適と思う。一度新書のラインナップをザーッとみるのもおもしろいかもしれない。